N1 読解 038
 

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

 

私たちの「心」は体のどこにあるのか。その問いへの昔の答えは心臓だった。生死に深くかかわり、感情に伴って(a)動が変わるから、というのが理由。現在はそんな説は(b)カエリみられないが、「脳だけで『心』のすべての説明がつくのだろうか」と考える研究者がいる。研究のパートナーは、庭先によくいる小さくて黒くて丸くなるやつ——ダンゴムシである。

公立はこだて未来大学(北海道函館市)の森山徹・助教の研究室に、直径約20センチの黒っぽい円盤がある。その上に作った幅2センチの円周状の「道」が、ダンゴムシを1匹ずつ歩かせ、森山さんがダンゴムシの「心」を探る舞台だ。

道の真ん中には一定間(c)カクで小さな円い突起物が置かれており、ダンゴムシは突起物や壁に突き当たると右の次は左、左の次は右と交互に向きを変えて進む。

森山さんは8年前、この実験をしていて、あることに気が付いた。長く実験を続けると、この動きをしなくなる連中がいたのだ。

「彼らにも『まじめタイプ』や『さぼりタイプ』などがいる。(1)彼らにも『心』があるはず、そう思ったんです」。論文で報告した。

ダンゴムシに乾燥は大敵だが、水も苦手。水に落ちるとおぼれ死ぬ(2)ため、水たまりなどは避けようとする性質がある。そこで実験装置で道の壁を外して周囲に水を張り、緊張を(d)いてみた。

[ A ]、しばらくは壁と同じように例の動きで水を避けていたダンゴムシが突然、道の中央にある突起物に登り始めた。土の中など湿気のある場所を隠れ家にしているダンゴムシが上に登ろうとするのは、普通は考えられない。

「逃げても逃げても水にぶつかるという緊急事態が続き、ダンゴムシがパニックになって特異行動が現れた、と考えると説明できます。『心』があるという証拠にもなるのではないか」

発達した脳が全身の神経系を制御するヒトとは違い、ダンゴムシは七つに分かれた胸ごとにある神経節が体の動きをバラバラに制御し、頭部にある脳神経節は単に全体のバランスを取るに過ぎないとされている。そんな生き物が「心」を持つことがあり得るのか。

「昆虫では、記憶と学習をしていることまでは間違いありません」。そういうのは佐久間正幸・京都大教授(昆虫生理学)だ。

佐久間さんらは、いくら歩いても虫を同じ所にとどめる装置と、動きに応じてにおいや風を自動制御する装置を組み合わせて、虫にとっての仮想現実環境を作り出し、動きを調べている。その結果、カイコやゴキブリが、フェロモンや風などの情報を上手に組み合わせて、異性やすみかを探していることがわかってきたという。

ミツバチは「ダンス言語」と呼ばれるコミュニケーションもしている。花の蜜を吸って巣に戻ったミツバチが「8の字ダンス」を踊って花のありかを仲間に教えることはよく知られている。

「昆虫に『心』があるかという点については、さらに研究が必要ですが、森山さんの研究でダンゴムシが『よじ登る』という新しい動きを見せたことはたいへん興味深い結果だと考えています」

ヒトの大脳は、他の器官に比べてあまりにも高度に発達しているため、心や体の動きは何でもその働きで説明できると考えられがちだ。一方、発達した脳を持たない昆虫のような生き物が何かを選択するような動きを見せても、多くは機械的な動きとして説明され、まして(3)「心」を持つなどとは考えられてこなかった

「もしダンゴムシに『心』があるのなら、人間の『心』と何が同じで何が違っているのか。その点が明らかになれば、新たにわかることがあるかもしれません」と、古山宣洋・国立情報学研究所准教授(認知科学)はいう。

電話ではうまく伝わらなかったことが、会って話したとたんに通じ合う経験は誰にでもある。顔の表情や身ぶり、手ぶりが言葉を超えた「何か」を伝えたからだと考えることが出来る。ダンゴムシの「心」がわかれば、この「何か」の正体にも迫れるのではないか。古山さんはそう考えている。

自転車に乗れるようになる、野球の打者がバットの芯でボールをとらえる……。これらの「体が覚える」という感覚も、これまでは脳の働きとして説明されてきた。[ B ]、無意識に歩いている時の足の細かい動きや、鉄棒の「けあがり」のように人間の意思で途中で止めるのが難しいような運動まで、脳の働きだけで説明がつくのか。一方、「パブロフの犬」の実験で知られる条件反射はゴキブリでも見つかり、高等生物に限らないらしいことがわかってきた。

「ダンゴムシの研究は、(4)まだ我々が知らない事実に光を当てる可能性を秘めているのです」

 

『朝日新聞』0779日付

「心はどこに 研究相手はダンゴムシ」より

 

【問1】下線部(a)動」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.太をたたく。                  (       )

2.名前を連する。               (       )

3.女性にも門を開く。            (       )

4.出馬要請を辞する。            (       )

 

【問2】下線部(b)カエリみられない」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.不当な解に抗議する。          (       )

2.客の情報を管理する。          (       )

3.会社からの途に立ち寄る。      (       )

4.カン暦を迎える。                (       )


 

 

【問3】下線部(c)「間カク」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.遠カク操作でロボットを動かす。  (       )

2.話のカク心に触れる。            (       )

3.代表選手として適カクだ。        (       )

4.次第に頭カクを現す。            (       )

 

【問4】下線部(d)いてみた」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.男女キョウ学の高校に通う。      (       )

2.近キョウを報告する。            (       )

3.経済キョウ慌に陥る。            (       )

4.弱点を補キョウする。            (       )

 

【問5】下線部(1)彼らにも『心』があるはず」とあるが、森山氏はどのような実験結果からこのことを証明しようとしたか。その説明として最も適当なものはどれですか。

1.ダンゴムシが、突起物や壁に突き当たると左右交互に向きを変えて進もうとしたこと。

2.ダンゴムシの中には、突起物や壁に突き当たっても向きを変えて進むという動きをしなくなるものもいること。

3.水を避けるために、普通は上に登らないダンゴムシが「よじ登る」という動きを見せたこと。

4.湿気のある場所に生息するはずのダンゴムシが、逃げても逃げても水にぶつかるという緊急事態に陥ったこと。

 

【問6】下線部(2)「水に落ちるとおぼれ死ぬため」と同じ意味・用法の「ため」を含むものはどれですか。

1.情けは人のためならず。

2.雨のため、遠足は順延になった。

3.健康のため、できるだけ歩くようにしている。

4.これはためになる本だ。

 

【問7】空欄[ A ]・[ B ]に入る語の組み合わせとして最も適当なものはどれですか。

1.A すると        B だが

2.A だが          B すると

3.A やはり        B もし

4.A もし          B やはり

 

【問8】下線部(3)「心」を持つなどとは考えられてこなかった」の理由として最も適当なものはどれですか。

1.昆虫のような生き物は、体全体のバランスを取るためにだけ脳が存在すると考えられるから。

2.人間の心の動きは脳の働きによると考えられているが、昆虫のような生き物の脳は人間の脳ほどには発達していないから。

3.昆虫のような生き物は、感覚器官から得た情報をただ上手に組み合わせて行動を選択するに過ぎないから。

4.ヒトの脳は、全身の動きを制御する働きがあるが、昆虫のような生き物の脳は体の動きをバラバラに制御していると考えられるから。

 

【問9】下線部(4)まだ我々が知らない事実」の内容として考えられることはどれですか。

1.人間の「心」を司るのは脳だけではないということ。

2.ダンゴムシにも高度に発達した脳の働きがあるということ。

3.ダンゴムシと人間には同一の「心」があるということ。

4.高等生物以外にも、条件反射が広く認められるということ。

 

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。

1.ダンゴムシに勤勉なタイプと怠惰なタイプの区別があることから、彼らにも「心」があることが証明されるが、このことから、高度に発達した脳を持たない生き物にも「心」があると推測することができる。

2.条件反射がゴキブリにも見つかったことから、昆虫のような生き物にも高度に発達した脳があることが証明されるが、その働きを研究することによって、人間の「心」についても新たな発見があるかもしれない。

3.発達した脳を持たない生き物には「心」がないとされてきたが、ダンゴムシにあると思われる「心」の実態が解明されれば、人間の「心」の働きについても新たな発見があるかもしれない。

4.ダンゴムシが普通はしない「よじ登る」という行動を見せたことから、ある条件下では「心」の働きが発生すると推測されるが、そのことから、人間も脳の働きだけでは説明できない「何か」が、ある条件下で発生すると推測される。

 

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