N1 読解 041
 

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

 

後世のメディアが21世紀初めの流行語を特集するとしたら、まちがいなく上位に来る言葉がある。米ハーバード大のジョセフ・ナイ教授が20世紀末に言いだした「(1)ソフトパワー」だ。

世界は、ハードパワー(軍事力、経済力)だけでは動かない。文化、価値観、外交政策などの「魅力」によって望む結果を得る力、つまりソフトパワーがないと、ハードパワーも空回りに終わる。

ナイ氏のこの考え方は、イラク戦争を見れば納得がいく。米国は多くの国の反対に耳を貸さずに戦争を始め、結果としてソフトパワーを損なった。

日本もかつては、明治政府のスローガン「富国強兵」が象徴するように、ハードパワー偏重だった。しかし、敗戦後は軍事力に高い価値を置かず、といって経済力にもこのところかげりが見えてきた。どのようにソフトパワーを磨き、活用していくかが問われる時代となった。

しかし、ソフトパワーを生む「魅力」は、あくまでよその国の人々に感じ取ってもらうしかない。押しつけ、独りよがりと思われたら、それだけで逆効果だ。日本の文化や価値観が「国際公共財」として広く国際社会で評価されるようになれば、「名誉ある地位」を占めることにつながるだろう。

この社説21では、さまざまな日本の新戦略を提言してきた。その一つひとつを実現していくために、常にソフトパワーを意識し、魅力ある態度で理念や具体案を語っていかなくてはならない。

日本は何を考え、どう行動すればいいのか。日本文化の伝統に根ざす三つの日本語を思い出しておきたい。

一つめは「ほっとけない」だ。

最近はNGOが、貧困対策活動の標語にこの言葉を使ったが、幕末の時代には儒学者、横井小楠(よこい・しょうなん)は開国後の日本は「強国」ではなく、「世界の世話やき」になるべきだと言った。東に病気の子がいれば、行って看病し……。これは、(2)宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の精神だ。

病気、貧困、天災、戦災、人権侵害。世界のどこかに苦しんでいる人がいたら飛んでいって助ける。パソコンには、困った時に押すヘルプキーがあるが、そんな役割を日本が果たせばいい。日本に相談したら、何か、困りごとに対応する糸口を見つけてくれる。そんな「ヘルプキー国家」である。

二つめは「もったいない」。

物を(a)末にせず、ゴミもなるべく出さない。自然環境を大切にする暮らしを日本人は長く続けてきた。石油ショックのあとは省エネにいそしみ、地球温暖化を防ぐ京都会議の議長もつとめた。そうした実(b)セキは世界も認めるところだ。

三つめは「(3)へこたれない」。

日本語の「もったいない」を世界に広める運動をしているノーベル平和賞受賞者、ケニアのワンガリ・マータイさんは「へこたれない」という題名の日本語版自(c)ジョ伝を出した。「ほっとけない」「もったいない」を力にするには、「へこたれない」ことが大事だ。

核廃絶や環境問題など、いま地球が抱える難題の解決には、並々ならぬ知恵と労力を要する。それでも、あきらめるわけにはいかない。地球を守り、持続可能な発展の道を切り開くために、日本は経済力や技術力だけでなく、決してへこたれない粘り強さを示す必要がある。

ソフトパワーを築くには歳月と手間がいるが、壊れる時は一瞬だということを忘れてはならない。こつこつと友好関係を積み上げたのに、他国の不信や(d)イキドオりを買うような首相や政治家の言動で「魅力」をいっぺんに落としてしまう。そんなことは、それこそ「もったいない」。

国際社会でソフトパワーの比重が高まりつつあることは、日本にとって追い風と考えていい。強制(軍事)と競争(経済)に偏らず、共感・共生のソフトパワーを生かす。この流れの中で存在感を見せることが世界のためになり、そのことがまた日本の評価を高めていく。そんな好循環に持っていけるのではないか。

BBCなどの国際世論調査で、日本は世界に「良い影響」を与えている国として2年連続で最高の評価を得た。ただし、中国と韓国だけ日本の「悪い影響」が突出していた。歴史問題のとげが[ ]を損なっている。

だが実は、中・韓との関係こそ、ソフトパワー戦略が有効なはずだ。

もともと日・中・韓は、文化の根っこを共有している。たとえば「徳」の概念は、ソフトパワーの考え方に近い。互いに信義を重んじ、胸を開いて対話する。その積み重ねで共通文化の基盤を確かなものにすれば、東アジアの安定感を高めるのに役立つだろう。

首相の靖国神社参拝が中国や韓国の反日デモにつながり、それを見て日本で反中、反韓の感情が高まる。(4)不毛なナショナリズムの連鎖を終わらせてこそ、日本のソフトパワーも強みを増す。

日本に来る留学生は10万人を超え、その1位は中国、2位は韓国だ。観光客も増えている。来るだけでなく、また来たいと思う。あるいは、ずっと住みたいと思う。そんな魅力を放つ日本列島にしなくてはならない。

『朝日新聞』0753日付(提言 日本の新戦略 社説21)ソフトパワーより

 

【問1】下線部(a)末」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.発展を害する。                  (       )

2.暴な行為を戒める。             (       )

3.国に帰還する。                  (       )

4.友人と遠になる。                (       )

 

【問2】下線部(b)「実(b)セキ」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.輸入品を排セキする。               (       )

2.鬼セキに入る。                    (       )

3.成セキが向上する。                (       )

4.自セキの念にかられる。            (       )

【問3】下線部(c)「自ジョ伝」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.秋のジョ勲が発表される。         (       )

2.ジョ行運転をする。                (       )

3.ジョ夜の鐘を聞く。                (       )

4.突ジョとして現れる。             (       )

【問4】下線部(d)イキドオり」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.フン水の前で待つ。                (       )

2.事態がフン糾する。                (       )

3.プレゼントをフン発する。         (       )

4.不当な扱いにフン慨する。         (       )

 

【問5】下線部(1)ソフトパワー」の説明として適当でないものはどれですか。

1.他国から魅力的とされる文化や価値観によって生まれるもの。

2.経済発展を意識した魅力ある理念から導かれるもの。

3.国際社会から評価されるような外交政策によって得るもの。

4.年月と労力をかけて築いても、瞬時に壊れることもあるもの。

 

【問6】下線部(2)宮沢賢治」の作品はどれですか。

1.「風の又三郎」

2.「三四郎」

3.「一握の砂」

4.「饗応夫人」

 

【問7】下線部(3)へこたれない」の説明として最も適当なものはどれですか。

1.他国に惑わされることのないように、政治家の力強い言動を重視すること。

2.地球規模の困難な問題に対処するために、粘り強い態度を見せること。

3.さまざまな問題を解決するために、約束事をわかりやすく示すこと。

4.地球が持続可能な発展をするために、必要な技術力を存分に発揮すること。

 

【問8】空欄[ A ]に入る言葉として最も適当なものを次から一つ選

1.日本のハードパワー

2.中・韓のハードパワー

3.日本のソフトパワー

4.中・韓のソフトパワー
 

【問9】下線部(4)不毛な」の意味として最も適当なものはどれですか。

1.実りのない

2.きりのない

3.味気ない

4.大人気ない

 

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。

1.世界をハードパワーだけで動かそうとすると、結果としてソフトパワーを失い、ハードパワーも空回りになる。強制と競争一辺倒の国際風潮を改めるために、日本がソフトパワーを意識し、世界に向けて具体策を講じるべきだ。

2.国際公益を追求するためには、軍事・経済の力だけでは不十分である。日本文化の伝統に根ざす唯一の精神である「ほっとけない」によって、地球環境を守り、目標実現に向けた粘り強さを示さなければならない。

3.今の日本に必要なものは、世界に向けて魅力あるソフトパワーを示すことである。日本がよい影響を国際社会に与えることで、中国・韓国をはじめ世界中から絶賛を博するだろう。

4.世界はハードパワーだけでは動かない。日本文化の伝統に根ざす精神を世界に向けて実践し、ソフトパワーを生かすことで国際社会における日本の評価を高め、ナショナリズムの悪循環を断たなければならない。

 

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