N1 読解 042
 

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

 

39日、NHKETV特集「小田実 遺す言葉」を見た。作家でありベトナム反戦の市民運動家、東京の病院の(a)カン和ケア病棟に入ってがんと闘う最後の日々がカメラにとらえられていた。テレビの小田さんは、私が病室にお訪ねしたときよりもやつれて、しかし力を振り絞って小説の口述をしていた。作家魂とは、かくも激しいものか。

小説は、題して「トラブゾンの猫」。トルコ半島にあるギリシャの植民都市にトロイの猫、クビライハーンのころの猫、秦の始皇帝のころの猫、そして日本の三毛猫が時空を超えて集まって語った。「人間ってなんで愚劣なことばかりしているのか」と。

「愚劣」といっても、例えば道路特定財源をマッサージチェアに使うお役所とか、ねじれ国会で突っ張りあって(b)開のてがかりを見いだせない与野党とか、そういう次元のことではない。ギリシャの昔からイラク戦争まで、人間が果てしなく繰り返してきた愚劣な「戦争」のことである。

テレビの前日の8日、東京・渋谷のホールで、「九条の会 小田実さんの志を受けついで」という集会があって、2300人が集まった。(1)なかなかのものですね34日、中曽根康弘氏らの「新憲法制定議員同盟」の総会で、草の根に広がる「九条の会」の向こうを張って「拠点づくりを」と対抗意識を燃やすだけのことはある。

「九条の会」の呼びかけ人は小田さんを含めて9人。この日、梅原猛氏はメッセージを寄せ、(2)大江健三郎、鶴見俊輔、加藤周一、三木睦子、井上ひさし、奥平康弘、沢地久枝の7氏、そして小田さんが「人生の同行者」と呼ぶ妻の玄順恵さんが次々と話した。

その玄さんの話。若き日、ギリシャ文学を専攻した小田さんは昨年春、家族でトロイ遺(c)セキやトラブゾンを旅して帰国、そして病がわかり730日亡くなる。「小田はギリシャのデモクラシー、小さい力をあわせて知恵をもって社会をつくる人々の力を信じていました。それに一番近いのはやはりアメリカだと。そのアメリカから学んだ『自由と平等』に、『平和主義』を加えたのが日本だと。それが9条だと」

私は、ギリシャの話を聞きながら、(3)イマヌエル・カントのことを思い起こしていた1724年生まれ、フランス革命後まで80年の生涯を東プロシアのケーニヒスベルクの街からほとんど出ずに過ごし、毎日決まった道を決まった時刻に散歩して、人々はそれに合わせて時計の針を直したという哲学者。世界を考え、人間を考え、歴史を考え、「永遠平和のために」という本を書いた。

カントといえば、その難解な著作を読むのに昔は苦しんだけれど、この「永遠平和のために」の本はもともと戦争に明け暮れる政治家にも読ませようと簡潔に書き、このところ日本でも次々とわかりやすい新訳が出た。なーんだ、カント先生、200年も前に、いまの世界をお見通しじゃないか。ここは綜合社発行、集英社発売のきれいな写真つきの池内紀さんの訳本に従って読み進みたい。

「戦争状態とは、武力によって正義を主張するという悲しむべき非常手段にすぎない」

「いかなる国も、よその国の体制や政治に、武力でもって干(d)ショウしてはならない」

イラク開戦前にブッシュさんも小泉さんも読んでほしかった。

「殺したり殺されたりするための用に人をあてるのは、人間を単なる機械あるいは道具として国家の手にゆだねることであって、人格にもとづく人間性の権利と一致しない」

だからこそ、(4)ドイツには兵役拒否のかわりに福祉などで働く制度がある。小田さんは、9条の日本は「良心的軍事拒否国家」になるべきだと説き続けた。

「対外紛争のために国債を発行してはならない」

昔、日露戦争を戦うのに、日本は外債募集で走り回った。太平洋戦争を戦うのに、郵便貯金を軍事費にあてた。

「常備軍はいずれ、いっさい廃止されるべきである」

9条は、ギリシャのアリストファネスの喜劇「女の平和」からカント先生まで、人類の思想を受け継いでいるのであって、占領軍に押し付けられたとかなんとかいう問題ではない。小田さんが言っていたとおり、「日本はいい国だ」ともっと自信を持っていい。

「戦争を起こさないための国家連合こそ、国家の自由とも一致する唯一の法的状態である」

カント先生がすごいのは、今日の国連の誕生を見越していたことである。「世界政府」はむりとしても、「世界市民」は空想の産物ではないと言っている。地球温暖化もチベット問題も、国家の利害ではなく、市民の問題ととらえられるべきなのだ。

と書いてきたものの、日本政治は日々忙しく、それどころじゃないと思いがちだが、カント先生はそこもクギを刺している。

「永遠平和は空虚な理念ではなく、われわれに課せられた[ A ]である」

 

『朝日新聞』08331日付

「ポリティカにっぽん カントと小田実 『永遠平和』うけつぐ9条」より

 

※ 憲法第二章「戦争の放棄」

  第九条 ①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇(いかく)又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

      ②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 

【問1】下線部(a)カン和」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.カン慢な動作。                      (       )

2.徹底した品質カン理をする。          (       )

3.一カンした態度。                    (       )

4.カン心に堪えない。                 (       )

【問2】下線部(b)開」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.しかたなく協する。               (       )

2.怠な生活。                        (       )

3.その小説は作だ。                 (       )

4.算的な考え。                      (       )

 

【問3】下線部(c)「遺セキ」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.戸セキを調べる。                   (       )

2.首セキで卒業する。                 (       )

3.奇セキが起こる。                   (       )

4.決勝でセキ敗する。                 (       )

 

【問4】下線部(d)「干ショウ」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.互いの意見がショウ突する。          (       )

2.外交交ショウに臨む。               (       )

3.ショウ談が成立する。               (       )

4.高ショウな趣味を持つ。              (       )

 

【問5】下線部(1)なかなかのものですね」のように筆者が言う理由として最も適当なものはどれですか。

1.「新憲法制定議員同盟」が設立されるきっかけとなるほど、「九条の会」の組織が規模を広げてきているから。

2.一般市民による「九条の会」が、新憲法を制定しようとする国会議員たちに対抗するほどの強い意識を持ち始めているから。

3.新憲法を制定しようとする議員組織が対抗意識を見せるほど、「九条の会」の広がりが大きくなり、注目を浴びているから。

4.「新憲法制定議員同盟」の総会に対抗し、「九条の会」が新たな拠点づくりを志すほど、会の意識が高まってきているから。

 

【問6】下線部(2)大江健三郎」の作品はどれですか。

1.『万延元年のフットボール』

2.『金閣寺』

3.『斜陽』

4.『地獄変』


 

 

【問7】下線部(3)イマヌエル・カントのことを思い起こしていた」の理由として最も適当なものはどれですか。

1.最後まで戦争の愚を伝えようとした小田さんと、自由と平等を人々に訴え続けたカントに、共通点を感じたから。

2.平和を実現する市民の力を信じていた小田さんと、永遠平和を願うカントに、共通点を感じたから。

3.若き日にギリシャ文学を専攻した小田さんの話を聞き、自分も若き日にヨーロッパの哲学者の著作に取り組んだことを思い出したから。

4.ギリシャのデモクラシーのような人々の力を信じていた小田さんの話を聞き、人々の力を結集しようとしたカントのことを思い出したから。

 

【問8】下線部(4)ドイツには兵役拒否のかわりに福祉などで働く制度がある」の理由として最も適当なものはどれですか。

1.国民を国家の安全のための手段としてとらえるのではなく、国民の人間性や判断を尊重しているから。

2.対外的に必要な兵役と同等以上に、国内における福祉が国家のために重要だと考えているから。

3.兵役を拒否することは原則的には許されないが、国家のために他の働きをする選択肢も残されているから。

4.有事に備えなければならないという考えの一方で、国内の福祉の実現も国民の義務と考えているから。

 

【問9】空欄[ A ]に入る語として最も適当なものはどれですか。

1.背信  2.負担  3.権利  4.使命  

 

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。

1.カントは、200年も前から現代の戦争のあり方を予見するかのように、永遠平和を唱えていた。ドイツではカントの思想が政治に受け継がれているが、米国や日本には理解されず、戦争の問題は解決されていない。

2.カントは、200年も前から現代の戦争のあり方を予見するかのように永遠平和を唱え、実現すべきだととらえていた。9条も、遠い昔から受け継がれた、人間が守るべき思想であるといえる。

3.カントは永遠平和の思想を実現することを市民の使命であると考え、その実践を目指してきた。小田さんもカントの思想を理想とし、永遠平和を唱える活動を一般市民に広げることに尽力した。

4.カントは200年も前から永遠平和を唱え、その思想は9条の精神に生かされている。占領軍に押し付けられた憲法ではあるが、これからも日本が大切に守るべき条項である。

back