N1 読解 045
 

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

 

日本経団連の会長に、キヤノン会長の御手洗冨士夫さんが(a)シュウ任した。旧経団連会長で新日鉄出身の今井敬さん、トヨタ会長の奥田碩・前会長の後を受けての登場は、「重厚長大」から自動車、ハイテク産業へという産業構造の変遷を[ A ]している。財界トップの交代をきっかけに、これからの日本に求められる企業経営のリーダーの姿を考えてみたい。

日本の企業では、従来、企業文化を体得した(1)調整型のリーダーが好まれ、強い指導力を発揮し、信念に基づいて改革を推し進めるタイプは少なかった。

長く低迷した日産自動車の社長兼最高経営責任者(CEO)として、再建を託されたカルロス・ゴーンさんが衆目を集めたのは、経営手腕もさることながら、日本には数少ない「ものを言う経営リーダー」であったことが大きかった。[ ]

国内市場の安定的な成長が見込め、(b)存の価値観のもとで、製品のコストダウンやスペックの小さな差別化を競えばよかった時代には、調整型の経営者でもさほど問題は生じなかった。情報を共有し、企業への帰属意識を維持する面では、むしろ好ましい姿でもあっただろう。

だが、いまはあらゆる情報が一瞬で世界の隅々まで駆け巡り、次々と新しい科学技術が創造され、新技術に基づく市場が生まれている。グローバルな経営が求められる時代には、単なる調整型では後れを取る。自社の資源を集中し、自ら基準を作り出して、未解決の課題に挑む「価値創造型」の経営が必要だ。時には、周囲の反発を恐れず、自らの信念に基づき、強い指導力を発揮して企業を引っ張る「改革者」であることが求められる。[ ]

御手洗さんは、日本には数少ない(2)「価値創造型」経営者の一人であろう。日本企業の中で育ちながら、23年間の米国勤務で米国流の合理精神を身につけ、経営資源を集中する経営改革に取り組む一方で、長期雇用など日本型経営の良さも維持してきた。キヤノンの05年の米国での特許取得数は米IBMに次いで2位と研究開発力や製品化力も強い。日本と欧米の良さを混ぜ合わせ、強力な企業に育てた手腕に学ぶべき点は多い。

とはいえ、日本企業のように、社内で時間をかけ、リーダーを育て上げるというシステムでは、不十分だ。一方、株価を上げることだけに必死になることも得策ではないだろう。[ ]

こうした経営を続けても人材が育つわけではなく、リーダーは生まれない。日本が産業立国として世界の中でトップの位置に立ち続けるには、一刻も早く、新時代に対応できるリーダー像を確立し、育成の仕組みを作らなければならないのではないか。景気が回復期に入った今こそ、中長期的な視野でリーダー育成に取り組むチャンスだ。

では、次世代の企業リーダーとはどのような人材であるべきなのだろうか。指導力や分(c)セキ力、判断力といった能力を備えることは当然として、私は以下の点が必要だと考えている。

まず、技術や人材に対する深い洞察力を持つ必要がある。具体的には、次世代技術への知識や関心を持ち、研究開発の方向付けができる人材でなければならない。文化力や職人の技能継承に関心を払う必要もある。加えて、人材育成に関心を持ち、社員教育だけではなく、教育機関への投資など社外の人材育成にも目を向けるべきだろう。

一方、個人の素養という面では、教養を高め、伝統文化やアート、各国の歴史を理解しなければならない。こうした教養に基づき、芸術などに金銭を投じる「文化的消費」ともいうべき消費の哲学を持つ必要もある。欧米社会では当然のこととされる社会貢献や外交に対する意識も高めるべきだ。

こうしたリーダーを育てるには、(3)従来の企業内の育成システムだけでは不十分だ。大学を含む教育機関や、社外にも開かれた企業の育成プログラムを数多く立ち上げるべきだ。[ ]

私はリーダーを育成する一つの試みとして、この4月に日産科学振興財団のサポートで新しいプログラムを立ち上げ、ディレクターとしてかかわっている。プログラムは7月スタートで、現在は参加者20人の選考を進めている。

内容は、「サスティナビリティー(持続可能な社会)&ヒューマニティー(人間性の重視)」という新時代の価値基準に沿い、環境や交通問題、大量消費からの転(d)カンなど未解決のテーマに沿った課題を自ら設定し、5人のグループワークによって9カ月間かけて新事業立ち上げのための提案書をまとめる。

ゴーンさんや産業技術総合研究所の吉川弘之理事長、米国・マサチューセッツ工科大学のリチャード・レスター教授も参加する。受講者には彼らとの対話を通じ、ものごとを中長期的に見通す力や、知識を活用して構想を練る力、企業リーダーとして身につけるべき素養などを学んでもらいたいと考えている。

多くのリーダーが育つようになれば、日本は今後もグローバル社会での戦いに勝ち残り、明るい将来像を描くことができるだろう。

 

『朝日新聞』06619日付 時流自論「次代を担う企業リーダーとは」竹内佐和子氏の文章より

 

【問1】下線部(a)シュウ任」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.不良品を回シュウする。                (       )

2.午後10時にシュウ寝する。              (       )

3.前例を踏シュウする。                  (       )

4.報シュウを与える。                     (       )

 

【問2】下線部(b)存」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.婚者を対象とする。                  (       )

2.常を逸する。                         (       )

3.金属を身につける。                  (       )

4.権利を放する。                       (       )

【問3】下線部(c)「分セキ力」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.書セキを整理する。              (       )

2.課題が山セキする。              (       )

3.初戦でセキ敗する。              (       )

4.成分をセキ出する。              (       )

 

【問4】下線部(d)「転カン」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.注意をカン起する。              (       )

2.住民に避難をカン告する。        (       )

3.ドルを円にカン算する。          (       )

4.その他の事情をカン案する。      (       )

 

【問5】次の脱文を補う箇所として最も適当なものはどれですか。

 

現実に、90年代以降の不況の下で、短期的な利益の確保を目指したために、自らの経営スタイルに自信を失い、ただ右往左往する経営者も多かった。

1.[]

2.[]

3.[]

4.[]

 

【問6】「ハイテク産業へという産業構造の変遷を[ A ]している」で、空欄[ A ]に入る語として最も適当なものはどれですか。

1.抽象

2.捨象

3.演繹

4.象徴

 

【問7】下線部(1)調整型のリーダーが好まれ」の理由として最も適当なものはどれですか。

1.従来、日本の企業には改革は必要がないとされていたから。

2.従来の日本の企業は、企業文化や帰属意識を重んじていたから。

3.日本の企業は、企業文化を身につけることで改革を進めてきたから。

4.日本の市場は安定的に成長し続けると考えられていたから。

 

【問8】下線部(2)「価値創造型」経営者」の説明として適当でないものはどれですか。

1.企業への帰属意識をどこまでも重視しようとする経営者。

2.未解決の課題に対して積極的に取り組もうとする経営者。

3.伝統文化やアートへの文化的消費に価値を見いだそうとする経営者。

4.グローバルな視点で自社の持つ資源の活用を考えようとする経営者。

 

【問9】下線部(3) 従来の企業内の育成システムだけでは不十分だ」の理由として最も適当なものはどれですか。

1.企業内でリーダーを育てることに固執すると、その企業の既存の価値観に縛られて、環境問題という未解決の課題に取り組むことが難しくなるから。

2.企業内でのリーダー育成には時間がかかり、企業外から人材を募ると、洞察力や高い教養を持つ人材が集まるから。

3.次代の企業リーダーには深い洞察力や高度な素養が求められ、教育機関を含む社外での育成も不可欠であるから。

4.未解決の課題が数多い現代では、企業の価値観に縛られないグローバルな視点を持つ学者の目線が必要であるから。

 

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。

1.現代において、次世代を担う企業リーダーが生まれているとはいいがたい。新しい技術が創造され、企業間の競争がますます激しくなるなか、独自のアイデアと行動力を持つリーダーを企業内で育てていく必要がある。

2.グローバル化が進み、新時代の価値基準が生まれている現代においては、それに対応できる企業リーダーが求められる。企業内外を問わず、開かれた育成プログラムで企業リーダーを育てることが、今後の日本経済のために必要である。

3.次世代を担う企業リーダーは、従来の企業内の価値観や人間関係の調整に固執するのみではいけない。景気が回復期に入った今、新しい産業に着手し利益を社会に還元するようなリーダーの存在が求められている。

4.日本が今後グローバル社会での戦いに生き残るためには、優秀な企業リーダーを育てていく必要がある。自社の株価を上げるためだけに奔走するのではなく、日本企業全体の景気回復を視野に置いたリーダーの存在が求められる。

 

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