N1 読解 046
 

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

 

年をまたいで、2本の映画が各地のシネコンを(1)席巻した。

女子中高生を中心に一大ブームを巻き起こした「恋空」。主人公の女子高生が同級生との恋をきっかけに、レイプや流産、いじめ、恋人との別れといった「不幸」に次々に襲われる。ひと昔前のジェットコースタードラマが復活したような展開だが、友人同士やカップルで埋まった席のあちこちからすすり泣きがもれる。

原作は、書籍化され200万部以上が売れたケータイ小説。誰もが無料でアクセスでき、感想も書き込める。そんな新しい読み方、楽しみ方が、作品を一緒に作り上げていくような感覚を生み出したといわれ、映画でも配給元の予想を超えたヒットにつながった。

もう1本は、昭和30年代の東京・下町に生きる人々を描いた「ALWAYS 続・三丁目の夕日」。昭和リバイバルを決定づけた05年公開作の続編だ。観客動(a)インは前作を超え、350万人に迫る。オート三輪、白黒テレビ、洗濯板といった懐かしい「モノ」に囲まれた風景の中で、家族のきずなや下町の人情が描かれる。

批評家の切通理作さんは、「三丁目の夕日」を「(2)時間旅行の映画」という。観客は映画に出てくる「断片」=モノを手がかりに時間をさかのぼる。

「たわいのない、誰もが安価に買えたようなモノを共通の手がかりにして、それぞれが自分の体験をたぐる。あくまで小文字の『私』=『i』を共有している感覚です」。戦争や事件といった社会的な大きな変化より、個人的な記憶が断片的なモノと結びつき、懐かしい感情を呼び起こしていく。

共通のモノをきっかけにさまざまな物語をたどり、ゆるやかな「つながり」を作っていく。例えば、今年で誕生10年を迎えた(3)ご当地キティちゃん”の根強い人気も象徴的だ。

京都では舞妓(まいこ)さん、岡山では桃太郎、沖縄ではシーサーやサトウキビ……。キティちゃんが各地の名物に扮したキャラクターグッズ。いまやバリエーションは千種類以上に増え、旅先で(b)コウ入する人は老若男女を問わない。

自身もコレクターであるデザインジャーナリストの藤崎圭一郎さんは「キティというみんなに知られた、最小限の記号を持ったキャラクターが、土地の物語、記憶と結びついたことに意味がある」という。

単なるキティちゃんグッズでは、関心を持つのはマニアだけ。全く同じモノを持つのも居心地が悪い。でも、少し違った扮装をした同じキャラクターを持っていることはゆるい連帯の気持ちにも通じる。集めたご当地キティを紹介するブログや掲示板もにぎやかだ。「ご当地キティは、コミュニケーションやつながりを作り出す『共鳴装置』『コミュニティー発生装置』なんです」。地方の名産という、みんなが知っている物語の存在が、その推進力だ。

また、切通さんは、共通の価値観が持ちにくくなった時代状況にも注目した。「個人がバラバラに細分化された状態の揺り戻しで、共有できる、コミュニケーションの土台になり得るものが必要となった。その場合、道具立ては(c)チン腐でも現実的でなくても構わない」と指摘する。

確かに、「恋空」「三丁目の夕日」「ご当地キティ」に共通するのは、どこにでもあるモノ、お約束の波瀾(はらん)万丈やありきたりの展開といった要素。それは、「ベタ」な物語の復権と言い換えることもできそうだ。

映画界で相次ぐリメークもの。往年の名曲を歌ったカバーアルバムのヒット。こてこての関西テイストで歌謡曲や浪花節をリバイバルさせたジャニーズの「関ジャニ(エイト)」人気……。かつては「ありきたり」「つまらない」といったマイナスのイメージを持っていた「ベタ」という言葉が逆転しているようにもみえる。

だが、武庫川女子大言語文化研究所長の佐竹秀雄教授は、「(4)一般の人が使う評価語としてのベタの定義はできない」という。「若い人たちが使う評価や感情を表す言葉は、何となく共有された感覚でできている。ベタも同じ。突き詰めるとお互い違うことを思っているとばれてしまうんです」

携帯電話でカタカナで書かれる言葉がいずれもそうだという。カワイイ、ステキ、ムカツク……、そして「ベタ」。あいまいで多様な解釈が可能だからこそ、カタカナの価値観は、みんなを共鳴させる力を持つ、ともいえる。

京都大の大澤真幸教授(社会学)はベタな物語に、「物語の欠落」への反動をみた。

「われわれの現実では、何が幸福か、何が善か、わからなくなってしまっている。社会が何を理想とするのかを示す物語が不在だから、あえて思いっきり単純でベタな物語にコミットすることで、その不在を乗り越えようとするのではないか。そのかかわり方自体には(5)一種のアイロニーがある」

ドラマが拡(d)サンしてしまった時代だからこそ、皮肉にも人々は「ベタ」な物語に安心感やあこがれを覚える。それが、会話やコミュニティーの土台になり得るものだから。「共鳴装置」としてベタな物語は復活し、これからも消費されていくのだろう。

 

『朝日新聞』0815日付「“RE”の時代 REVIVAL〈復活〉」より

 

【問1】下線部(a)「観客動イン」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.道路の幅インを測る。               (       )

2.環境破壊に起インする問題。         (       )

3.強インに意見を押し通す。           (       )

4.よいイン象を与える。               (       )

 

【問2】下線部(b)コウ入」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.試合を見てコウ奮する。             (       )

2.免許をコウ新する。                 (       )

3.コウ買意欲をかき立てられる。        (       )

4.応急手当のコウ習を受ける。         (       )

【問3】下線部(c)チン腐」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.チン貸住宅に住む。                 (       )

2.冒頭チン述を行う。                 (       )

3.チン黙が続く。                     (       )

4.デモがチン圧された。               (       )

 

【問4】下線部(d)「拡サン」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.ストレスを発サンさせる。           (       )

2.打サン的に行動する。               (       )

3.作品を絶サンする。                 (       )

4.辛サンをなめる。                   (       )

 

【問5】下線部(1)席巻した」の意味として最も適当なものはどれですか。

1.圧力をかけた。

2.威力を示した。

3.踏みにじった。

4.征服した。

 

【問6】下線部(2)時間旅行の映画」の説明として最も適当なものはどれですか。

1.かつては誰もが安く買えたモノが断片的に映し出され、観客が共通の出来事に思いをめぐらすことで、時の流れを懐かしく鑑賞できるような映画。

2.映し出される断片的なモノの映像が個人的な記憶を懐かしく呼び起こし、観客の思いを過去の時間へとさかのぼらせるような映画。

3.今となっては懐かしくて珍しいモノの映像が共通の手がかりとなり、観客に過去から未来へと流れる時間の推移を感じさせるような映画。

4.映像を通して昔のモノが再び共有できるという新たな結びつきが芽ばえ、観客が自分の体験や社会の流れを思い起こすことができるような映画。

 

【問7】下線部(3)ご当地キティちゃん”の根強い人気も象徴的だ。」とあるが、どういう点が「象徴的」なのか。その説明として最も適当なものはどれですか。

1.地方の名産にまつわる物語に即して、単一ではなく微妙な差異のあるモノを作った方が人気が得られるということを示している点。

2.京都や岡山や沖縄を代表的に示すモノがあるように、それぞれの土地にはその土地柄を表すモノや物語が必ずあるということを示している点。

3.人々があるモノを共有することによって、それにまつわる物語が語られるとともに、ゆるやかな連帯感が生まれてくるということを示している点。

4.人々が共通のモノを所有することによって生まれる物語やつながりは、いつまでも根強い人気を保ち続けていくということを示している点。

 

【問8】下線部(4)一般の人が使う評価語としてのベタの定義はできない」の理由として最も適当なものはどれですか。

1.「ベタ」という言葉は、あいまいで何となく共有された感覚を表しているだけで、それを使う個人の思いは異なっていて、解釈は一つではないから。

2.「ベタ」という言葉は、その意味自体があいまいで多様な解釈が可能であり、一つの明確な意味に限定するとかえって自由な使用が妨げられるから。

3.「ベタ」という言葉は、本来映画批評に携わる専門家たちの間で使われる言葉であり、一般の人が評価語として使用する言葉ではないから。

4.「ベタ」という言葉は、個人の感情を集約させたマイナスのイメージを持つ言葉にすぎず、みんなを共鳴させる力は持ち合わせていないから。

 

【問9】下線部(5)一種のアイロニー」と見なされるものとして最も適当なものはどれですか。

1.「ベタ」な物語における、思いきった単純性

2.「ベタ」な物語における、物語不在への反動

3.「ベタ」な物語の若年層における人気

4.「ベタ」な物語への安心感とあこがれ

 

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。

1.女子高生の波瀾万丈な運命を描いた「恋空」と、家族のきずなや下町の人情を描いた「ALWAYS 続・三丁目の夕日」は、ともに物語の展開があまりにも単純で「ベタ」な映画ではあるが、現実に生きる人間の真実の姿を映し出している。

2.個人がバラバラに細分化された状態の現代において、人々はコミュニケーションの土台になり得るものを必要としており、「ベタ」な物語はその共鳴装置として今後も一役買っていくことだろう。

3.私たちは、いつのまにかありきたりな生活を失ってしまったために、何が幸福で、何が善なのかといった判断もできず、個人が生きる目的まで見失ってしまったのかもしれない。

4.映画界におけるリメークものの流行や、歌謡界でのカバーアルバム、リバイバルなどの人気は、かつてはマイナスのイメージだった「ベタ」を復権させようとする風潮の延長線上にあって、長く続くものではないだろう。

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