N1 読解 048
 

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

 

(1)「古典」が人気だ

「ロリータ」「冷血」といった世界文学の新訳が話題となり、「グレート・ギャツビー」を訳したばかりの村上春樹も3月、今度は「ロング・グッドバイ」を刊行する。

音楽では、名曲の(2)さわりを集めた「ベスト・クラシック100」が1003千円のお得感もあり、シリーズ全体でミリオンセラーに。そういえば「おくのほそ道」「徒然草」を「えんぴつでなぞる」なんて大ヒット本もあったっけ。

「先行きが不透明な時代に、本物が求められた結果ではないでしょうか」と話すのは光文社翻訳出版編集部の駒井稔編集長だ。

同社が昨年9月に発売した「古典新訳文庫」も好調だ。ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」第1巻は4刷。初回配本8冊のほとんどが刷りを重ねた。

「本物」だけで売れたわけではない。秘密は創意あふれる翻訳にある。たとえばカントの「永遠平和のために」は「悟性」「格率」といった術語を本文から排した。「下級官(a)の哀歓」と評されるゴーゴリの作品集は大胆にも“落語調”でよみがえった。

「古典の持つ重々しさを一(b)ソウしたかった。いわば通勤電車で読める古典です」と駒井さんは話す。

「単に古いからではなく、根本を論じようとする機運が高まっているのではないか」とみるのは、講談社の思想誌「RATIO」の上田哲之編集長だ。例として、昨年の創刊号に載せたイタリアの哲学者アガンベンのアリストテレス論考をあげる。こんなカタい内容にもかかわらず、初版1万部が完売しそうな勢いで今春、3号が発売予定だ。

911テロの背景を考えるのは一筋縄ではいかない。それまでの思想の流れはノーをつきつけられた。新しい思想の出番がありうるのか、それとも過去の遺産を道具として使い直せるのか、模索している人は少なくない」

「グロテスクな教養」などの著書がある高田里惠子・桃山学院大教授(ドイツ文学)は、今、古典を知ることの効能を「(3)人を宙づり状態に置くこと」と位置づける。「物事の複雑さを受けいれる心の強さと自己アイロニーを得ることで、大きなうねりに流されずにすむように思うのです」

だが教育現場に携わる高田さんは古典回帰に、やや懐疑的だ。「学生たちは現実的な答えが記されていない古典より、実用的で即効性のある知を求めているように見える」

シンプルな内容の新書がベストセラーになったり、問題に「ズバリと」答えてくれるテレビの占いがはやったりする現象は、その結果だと指摘する。

哲学者JR・サールの訳書もある30代のライターコンビ山本貴光さんと吉川浩満さんもまた、古典人気を楽観的に見られない。

「今の時代、ただ古典を読むことと、グーグルの検索がうまくなることと、どちらが知に対する姿勢として優れているでしょうか」

古典とは、いわば「動かない知」の代表例。かつて家庭には「文学全集」や「百科事典」が(c)チン座していた。しかしいま家庭にあるのは「動き続ける知」、つまりネットだ。市井の「研究者」が書籍や音楽、映画などを各人の体系でつないだガイドが簡単に見られるようになった。2人も10年前からウェブサイト「哲学の劇場」で、哲学から科学、芸術までの書評や作家情報を載せ、作品同士のつながりを見いだせるようなデータベース作りにいそしんでいる。

「古典といっても名曲のさわり集は、いわば更新されない『全集』の目次。100曲のさわりで満足して完結する人がほとんどではないか」と山本さん。「無数のガイドが浮遊するネットでは、古典といえども存在価値は相対化され、埋没する。一つの関心領域に安住する態度では、オタク的な閉じたあり方となんら変わりない」と話す。

動かない知への懐疑は明治学院大の四方田犬彦教授(映画史)も感じている。

「教師は生徒を古典に触れさせる(d)チュウ介者」と思い、10年前から学生に160本の映画リストを示し、2年で80本を見た感想を書かせる課題を与えてきた。しかしもはや、リストはあまり意味を持たないのではないかと思い始めた。

「リストを超えて独創的な世界を広げていく学生は毎年23人いる。そんな積極的な人間は放っておいてもネットから知識を引き出す。むしろ教師の役割は、そうでない学生に、更新され続ける知識や情報ではなく、[A ]を示すことではないか」

四方田さんには大学時代の忘れ難い教師がいる。

「どんなに疲れていても、寝る前に買った洋書の目次だけを見て寝ろ」「本は索引から調べて読むものである」

彼が教えたのは知に向かう姿勢であり、未知なものへの謙虚な態度だった。

山本・吉川コンビも昨年暮れ、子供向けに刊行した「問題がモンダイなのだ」(ちくまプリマー新書)で一つの態度を用意した。それは自分の興味の持った問題を、とことん根源まで考えてみること。

「ひとまずは自らの専門知からさかのぼることで古典への懸け橋ができる気がします」と吉川さんは(4)期待する。

古典を「動かないモノサシ」として扱うのでなく、モノサシのなかに古典を投げ込んでみる。「動き続ける知」のなかに、21世紀の「知」のあり方が隠されている。

『朝日新聞』0713日付

文化「古典を使う 不透明な時代の温故知新」より

【問1】下線部(a)「官」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.病人を隔する。                (       )

2.有能な員を採用する。          (       )

3.鋭な刃物を用いる。            (       )

4.契約を行する。                (       )

【問2】下線部(b)「 一ソウ」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.外壁を塗ソウする。              (       )

2.高ソウビルで食事をする。        (       )

3.空気が乾ソウする。              (       )

4.公園を清ソウする。              (       )

 

【問3】下線部(c)チン座」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.商品をチン列する。              (       )

2.1時間後にチン火した。          (       )

3.チン黙を続ける。                (       )

4.チン貸マンションに入居する。    (       )

 

【問4】下線部(d)チュウ介」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.実力が伯チュウする。            (       )

2.態度を改めるようチュウ告する。  (       )

3.無作為にチュウ出する。          (       )

4.管理人が常チュウする。          (       )

 

【問5】下線部(1)「古典」が人気だ」の理由として適当でないものはどれですか。

1.現代人でも親しめるような工夫がこらされているから。

2.実用的ですぐにわかる答えを古典は指し示してくれているから。

3.人々の、物事の根本について思索したいという気持ちが高まっているから。

4.古典をゆるぎない本物の存在ととらえ求める人が多いから。

 

【問6】下線部(2)さわり」の意味として最も適当なものはどれですか。

1.最初の部分。

2.最後の部分。

3.聞かせどころ。

4.泣きどころ。

 

【問7】下線部(3)人を宙づり状態に置くこと」の説明として最も適当なものはどれですか。

1.込み入った事象を受け止める強い精神を養い、自分自身を認識することで、時代の波にのまれないようにすること。

2.出来事のわずらわしさを取り除く術と、更なる自分のスキルアップを身につけることで、時代に立ち向かう能力を養うこと。

3.物事の根本を解明し、自己中心的な考えを改めることで、不透明な時代を生き抜き、立場を守ろうとすること。

4.複雑で難解な古典に向き合い、読み解こうとすることで、自分自身を高め、ゆるぎない思想を持とうとすること。

 

【問8】空欄[ A ]に入る語句として最も適当なものはどれですか。

1.根本を論じる姿勢

2.根源的な知

3.動かない知

4.知に向かう姿勢

 

【問9】下線部(4)期待」の内容として最も適当なものはどれですか。

1.興味ある問題の根源を徹底して探ることで、古典にも向かう姿勢を示す読み手が、著作によって現れること。

2.子供向けに刊行した著作は、自分たちが専門知をさかのぼって書き上げたものであることを、読み手に理解してもらうこと。

3.興味を持った問題について根源まで考えることで、専門知と古典とのなかだちができること。

4.著作の中で示した、読書の基本である知に向かう姿勢や未知なものへの素直な態度が、読み手にきちんと伝わること。

 

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。

1.古典は、現実的な答えが記されておらず、ただ古典を読むだけでは新しい出来事に対応した思索が難しい。現代においては、ネットの存在を無視することができず、ネットを活用し、実用的で即効性のある知を求めることが必要になってきている。

2.現代では、更新され続ける知識や情報をネットから引き出すことができる。古典を安住できる関心領域ととらえるのではなく、積極的に動き続ける知や未知なものへ向かっていく態度が今後望まれる。

3.現代では、知の中心はネットによるものになっており、一つの関心領域から出発して、さまざまな分野に触れる機会が多くなっている。その中では、「動かない知」である古典は相対化されざるをえず、古典に代わる権威が求められている。

4.実用的ですぐに答えを与えてくれる知がもてはやされている。人々が複雑なものを嫌い、未知なものに対する謙虚さを失っているからだが、このような時代だからこそ、ゆるぎない知としての古典が読まれ、用いられることが重要だ。

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