N1 読解 050
 

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

 

1984年といえば、裁判の世界では2人の死刑囚が再審で相次いで無罪となった(a)ショウ撃の年として記憶されている。

50年に香川県で一人暮らしのお年寄りが殺され、金を奪われた財田川事件。もう一つは、55年に宮城県で起きた一家4人殺害放火の松山事件である。

こうした冤罪を踏まえ、刑事法学者だった故平野龍一・元東大学長が翌年、日本の裁判を痛(b)レツに批判する論文を書いた。法廷での供述・証言よりも検察の調書を重んじる傾向があると指摘し、「脱却する道は、おそらく参審か陪審でも採用しない限りない。わが国の刑事裁判はかなり絶望的である」と述べた。

それから20年余り、冤罪は後を絶たない。今年、強姦(ごうかん)の罪で21カ月服役したのち、冤罪と分かった富山県の男性は「裁判に絶望した」と語った。

そんななか、平野氏が求めた「参審か陪審」のうち、参審の一種といえる(1)裁判員制度1年半後の09年春までに始まる。くじで選ばれた市民が、プロの裁判官と一緒に殺人や放火などの重大事件を裁くのだ。

市民の裁判への参加は欧米ではよく見られるが、日本では戦前の一時期におこなわれた陪審制以外はなかった。

期待されているのは、市民の常識や感覚を裁判に反映させることだ。そのためには、何をすべきなのか。101日の「法の日」を機会に考えてみたい。

まず、検察官が被告に有利なものも含めて証拠をすべて開示することだ。

検察官は強制的に供述や物証を集めることができる。有罪の立証に都合のいいようなものだけを法廷に出せば、プロの裁判官はともかく、素人の裁判員を誤った方向に導きかねない。裁判の始まる前に、証拠の一覧表を示し、(2)手の内をすべて明かすことも必要だ。

証拠のなかで、信用できるかどうかがしばしば争われてきたのが自白調書の内容だ。裁判員制度では、そんな争いに時間を費やしてはいられない。日々の仕事や家事を抱える裁判員が、長期間付き合うことはできないからだ。

自白調書の争いをなくすには、取り調べを録画し、法廷に提出するしかない。警察と検察は裁判員制度の始まりまでに全面的に録画を実施すべきだ。

(3)それができないのなら、被告側から信用できないと言われた自白調書については、裁判所は証拠として扱わないようにしてもらいたい。

裁判員は法廷でのやりとりを重視して判断する。検察官と弁護人は専門用語を避け、分かりやすく話すことが求められる。事実関係や争点を素人に分かるように整理して示すことも欠かせない。

そういう工夫をしたとしても、(4)市民が参加すれば間違った判決がなくなる、と単純に考えるのは危うい。

陪審制を採用している米国では、性犯罪などで有罪となった被告が、DNA鑑定によって無罪であることが分かるケースが相次いでいる。救援組織によると、判明しただけで約200人に達し、死刑囚も含まれている。陪審員は感情論に流される面もあるからだろう。

過去の裁判では、どういう状況のときに誤った判決が下されたのか、裁判員はよく知っておいた方がいい。冤罪をつくり出さないための最低限の予備知識だ。

そこで、最高裁に提案したい。これまでの冤罪の事例を集め、冊子にして裁判員にあらかじめ配ってほしい。誤判に至った原因を説き明かし、分かりやすいものにすることは言うまでもない。

裁判員制度の始まりが近づくにつれ、裁判員に選ばれても断りたいという人が増えている。冷静に判断する自信がない。仕事や介護で手が離せない。そんな理由が多いようだ。

裁判員を辞退できる場合について、裁判員法では、70歳以上や学生などのほか、重い病気にかかっているといった「やむを得ない理由」をあげている。この詳細は今年中にも政令で定める。

さまざまな市民の常識を反映させるためには、辞退が認められるケースを絞った方がいい。それぞれ事情はあるだろうが、市民も候補者に選ばれたら、できるだけ参加してもらいたい。

こうして集められた候補者に対して裁判官らが面接し、最終的に6人の裁判員を選ぶことになる。

いま各地で模擬裁判が開かれている。ある地裁では、面接で「被告の(c)ケイ歴や性向を知っている」と答えた候補者がいた。どうして知っているのか尋ねると、「事前に配られた模擬記事で」との返事だ。こうした候補者は裁判員からはずされた。(5)予断を持っていない方がいいというのだろう。

裁判への影響を考えると、メディアの責任は大きい。だが、この情報社会で、白紙の状態で法廷に来ることを期待するのは現実的ではない。

逮捕されただけでやみくもに犯人と断定したり、プライバシーをことさらに(d)シン害したりする報道は避けなければならないが、事件をさまざまな角度から報道することをやめるわけにはいかない。

裁判員法では、裁判員の守秘義務や裁判員への接触禁止が定められている。だが、裁判の実態がベールに包まれていては国民の理解は進まない。裁判後に、裁判員が体験や感想をメディアを通じて次の裁判員に広く伝えていくことがなければ、この制度の発展はおぼつかない。

市民の常識を生かして犯罪を裁き、(6)その体験をみんなで共有する。そんな仕組みにするよう知恵を絞っていきたい。

『朝日新聞』07101日付 社説より

 

【問1】下線部(a)ショウ撃」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.先方と折ショウを重ねる。           (       )

2.無ショウで部品を交換する。         (       )

3.問題のショウ点を絞る。             (       )

4、秋は感ショウ的になりやすい。        (       )

【問2】下線部(b)「痛レツに」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.交渉が決レツする。                 (       )

2.けがで戦レツを離れる。             (       )

3.彼はレッ火のごとく怒った。         (       )

4.レッ勢をはね返す。                 (       )

 

【問3】下線部(c)ケイ歴」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.伝統芸能をケイ承する。             (       )

2.みんなからケイ遠される。           (       )

3.ケイ率な行動を慎む。               (       )

4.ケイ費を削減する。                 (       )

 

【問4】下線部(d)シン害」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.隣国をシン略する。                  (       )

2.もう少しシン抱する。                (       )

3.シン食を共にする。                  (       )

4.シン水の被害を受ける。             (       )

 

【問5】下線部(1)裁判員制度」の目的として最も適当なものはどれですか。

1.無罪の者を罰することになる冤罪を、日本の裁判から根絶するため。

2.取り調べの録画を全面的に実施して、自白調書の争いをなくすため。

3.プロの裁判官と市民とが一緒になって、重大事件の犯人を特定するため。

4.法廷での供述・証言を重視し、一般市民の感覚を裁判に反映させるため。

 

【問6】下線部(2)手の内をすべて明かすこと」の説明として最も適当なものはどれですか。

1.検察官が集めた証拠を、すべて裁判員の前に明らかにし、使うか否かの判断をさせること。

2.検察官が集めた証拠を、使うか否かにかかわらず、すべて裁判員の前に明らかにすること。

3.検察官が使う予定の証拠を、すべて裁判員の前に明らかにすること。

4.検察官に使ってもらいたい証拠を、すべて裁判員に決定させること。

 

【問7】下線部(3)それができないのなら」の指す内容として最も適当なものはどれですか。

1.自白調書を信用できるものにすること。

2.取り調べを録画して法廷に提出すること。

3.信用できる自白調書のみを法廷に出すこと。

4.自白調書の内容についての争いをなくすこと。

 

【問8】下線部(4)市民が参加すれば間違った判決がなくなる、と単純に考えるのは危うい」の理由として最も適当なものはどれですか。

1.性犯罪などは、一般的に冤罪となりやすい犯罪であるから。

2.法律用語は、裁判員には難しく理解しがたいものであるから。

3.参加した市民が感情に流された結果であるとみられる判決があるから。

4.DNA鑑定など、科学的手法がまだ追いつかないところがあるから。

 

【問9】下線部(5)断を持っていない方がいい」の理由として最も適当なものはどれですか。

1.被告と裁判員との相性関係が重要だから。

2.裁判員とプロの裁判官との相性関係が重要だから。

3.被告に関する予備知識は、被告にとって不利な判断を招きがちだから。

4.法廷でのやりとりだけを重視して判断してほしいから。

 

【問10】下線部(6)その体験をみんなで共有する」の説明として最も適当なものはどれですか。

1.裁判員法では、裁判員の守秘義務や裁判員への接触禁止が定められている。しかし、すべてがベールに包まれたままでは、国民に見える裁判をと考えた趣旨にそぐわない。そこにメディアの役割があり、裁判への関心を高め外から自由に監視できる裁判とするために、体験や感想の公開と共有は必要である。

2.裁判員法では、裁判員の守秘義務や裁判員への接触禁止が定められている。しかし、すべてがベールに包まれたままでは、国民のなかに裁判への参加意識を高めていくことはできない。裁判員が得た体験や感想をメディアを通じて広く国民に伝え、国民共有の財産としていくことが必要である。

3.裁判員法では、裁判員の守秘義務や裁判員への接触禁止が定められている。しかし、それでも個々の情報が徹底して守られるとはとうてい考えられない。いずれ、さまざまな情報が漏洩(ろうえい)することになるのは明らかなので、むしろメディアが率先して裁判員の体験や感想を正確に伝えていくことで、国民共有の財産としてそれらを広く定着させていくことが必要である。

4.裁判員法では、裁判員の守秘義務や裁判員への接触禁止が定められている。しかし、すべてがベールに包まれたままでは、一人一人の体験が次につながらないことになる。その橋渡しとして、メディアが率先して裁判員の体験や感想をとりまとめ、次の個々の裁判員にもれなく伝授していくことが必要であり、その知恵はしだいに広く伝わっていくことになる。

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