N1 読解 051
 

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

 

コムスンとNOVAの連続不祥事は、急成長する昨今の新興企業の怪しさを露呈するとともに、(1)はしなくも現代文明の本質問題を再確認させることになった。考えてみれば自明の話だが、(2)対人サービスと地域分散は両立し難いということである。

それぞれ介護と教育を提供する企業だが、どちらの場合も、担当できる人の数と、一人が担当できる広さは限られている。(a)セッ速な全国展開を図れば、無理が生じるのは当然なのである。なんとか両社の当面の不祥事は片付いたが、高度のサービスと広域分散の矛盾という、本質的な問題は残されている。

病院や大学をはじめ、劇場や博物館やホテルや料理店など、現代人が必要とする文化産業はすべて分散になじまない。経済的に不合理だというだけでなく、分散供給すれば質が落ちるのである。何より都市の盛り場は現代生活の不可欠な中心であるが、(3)これは集中そのものが生み出す文化装置なのである

かつて日本の工業社会が頂点にあったころ、人びとは分散に耐える生活様式を持ち、サービスの内容も全国均一に貧しかった。娯楽の主力はテレビや映画館であり、病院や大学の専門分化も今のように進んではいなかった。消費者はどこに住んでもほぼ同様のサービスを受けられ、東京の盛り場のにぎわいも今ほど魅力的ではなかった。

介護も子供の補習も、おもに家族の負担によってまかなわれていた。英語学習熱も芸術文化の欲求も、どのみち全国的に低かったから、地方暮らしの不便が痛感されることはなかった。地域格差は存在しても、それを測る物差しの精度が(b)セン明でなかったのである。

やがて「サービス産業化」の掛け声とともに事態は一変して、大都市集中への心理的な圧力が急上昇した。病院も大学も専門分化が進んで質が高まるにつれて、人材は相対的に減少するから、大都市の総合病院と地方の診療所の差が目立つようになった。芸術文化の場合も、巨大都市でなければ採算のとれる観客数は確保できない。小売業も業種やブランドの数が増えたことから、一式をそろえて魅力ある盛り場を養いうる人口は増える一方である。

一方、女性の社会参加と家事の外部化が進むなかで、介護を含めたサービス産業の需要は全国均一に増えた。高度な医療や教育の要求は広まり、文化的にもテレビと地域商店街では満足できない人が多くなった。これが都市集中を招いた原因だが、それが悪循環してますます地方の飢餓感を増幅している。

このさい(c)カン過できないのは昨今の少子化の効果であって、これがいやがうえにも集中化に拍車をかけている。少子化とはたんに人口減少を意味するだけでなく、家庭で一人の子供にかけられる費用が増えたということだからである。昔なら貧しい家の多数の子女は故郷に残ったものだが、今や一人っ子になった子供は自由に東京に遊学できる。現にこれが原因で、地方の私立大学はひと足早く学生数の減少に悩んでいる。皮肉をいえば、国が地方に送る老齢年金でさえも、じつは老人の手から孫に渡って、都市に還流していると見ることができる。

この急激な都市集中の流れは、それが現代文明の勢いであるだけに、行政もとどめることはできない。先の夕張市の破産が[ A ]な例であって、市当局が町に住民を引き留めるために、大都市なみの施設を(d)ケン命に整えようとしたのが赤字の一因であった。義務教育の学校も例に漏れず、山村では学校統合は避けられない運命になっている。財政の問題もあるが、あまりに小さい学校は子供の社会性を養ううえでも不安があるからである。

さらに二十一世紀の問題として見たとき、住民の地方分散は環境保護の点でも困難が多い。広域にわたる大量の物流、長距離の通勤や通学は当然エネルギーの消費を増やす。電力も送電線が伸びればロスが出るし、道路や鉄道の建設はつねに環境を破壊する。工場を分散することも昔のように雇用促進にはつながらず、そのわりには製品と廃棄物の輸送量を多くするのは、明白ではないだろうか。

(4)この巨大な文明上の課題に取り組むには、おそらく歴史に例を見ない発想の大転換を必要とする。対策の方向は二つ考えられるが、その一つはこの時流に果敢な抵抗を試みる選択になるだろう。その場合、私たちは生活水準を大幅に切り下げるとともに、大増税のうえ、その半分を話題の「ふるさと納税」に充てることになるかもしれない。

もう一つの選択は逆にこの潮流に積極的に乗り、都市集中をより賢明なかたちで推進することである。東京の人口を現在の二倍に増やし、そのほかに十カ所ほどの一千万都市を設けて、いわゆる多極集中をめざすのである。建築は徹底した耐震超高層ビルにして、その間に公園、緑地を広く取り、電気バスとモノレールを四通八達させたうえで、自動車の乗り入れを禁止する。幸いポスト工業化で都市には工場を建てる必要がないから、水も電気も十分に補給できるはずである。

それにしても現代の最大の問題はこのどちらを選ぶかではなく、こうした選択をおこなう制度が民主政治にはないということである。数年ごとに地域単位で選ばれる政治家には、これほど[B ]で長期的な計画を考える余裕はない。ここは一つ、マスコミと非営利組織を頼りに、声をあげつづけるほかはあるまい。参議院選挙をまえにして、やや暗然としてつれづれに思うことである。

 

『朝日新聞』0772日付

オピニオン「都市集中 選択は二つ、発想の大転換を」山崎正和氏の文章より

 

問1 下線部(a)セッ速」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.絵の巧セツを見分ける。         (       )

2.セツ度をわきまえる。           (       )

3.栄養をセッ取する。             (       )

4.他国とセッ衝する。             (       )

問2 下線部(b)セン明」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.市場にセン風を巻き起こす。     (       )

2.セン度のいい野菜。             (       )

3.インフルエンザに感センする。   (       )

4.新製品をセン伝する。           (       )

 

問3 下線部(c)カン過」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.音楽をカン賞する。             (       )

2.互いに補カンし合う。           (       )

3.カン板を出す。                 (       )

4.その短編は圧カンだった。              (       )

 

問4 下線部(d)ケン命」と同じ漢字を含むものはどれですか。

1.政治家にケン金する。           (       )

2.途中で棄ケンする。             (       )

3.彼女は才色ケン備だ。           (       )

4.長年のケン案が解決した。              (       )

 

問5 下線部(1)はしなくも」の意味として最も適当なものはどれですか。

1.ちょうどよい時期に      2.否定しようにも

3.思いがけず              4.期待していたとおり

 

問6 下線部(2)対人サービスと地域分散は両立し難い」の理由として最も適当なものはどれですか。

1.都市の人びとが多様化されたサービスを望むのに対し、地方においては人材不足などの問題から画一的なサービスで満足する人が少なくないから。

2.文化産業に対するサービスの需要は全国的にあるが、質の高いサービスを地方に提供しても、人びとの欲求の地域格差は縮まらないから。

3.地方の人びとが高度なサービスを求めることで、都市の人びとに対するサービスは分散され、質の低下が家族に負担をかける結果になるから。

4.サービス産業の需要が全国均一に増えても、すべての文化産業は利益の確保やサービスの質の低下という点から、地方に散らばることはそぐわないから。

 

問7 下線部(3)これは集中そのものが生み出す文化装置なのである」の説明として最も適当なものはどれですか。

1.現代生活の中心である都市の盛り場は、全国からの人びとの集まりによってなりたっている一つのブランドである。

2.都市の盛り場は、現代人が必要とする文化産業が集まることによって作り出された文化的環境である。

3.人びとの文化に対する欲求が都市に集中し、その欲求自体がさらに新しい文化を生み出しているのが都市の盛り場である。

4.多額の金銭が都市に集まることで文化の多様性が生まれ、現代人に不可欠となったものが都市の盛り場である。

 

問8 空欄[A][B]に入る語の組み合わせとして最も適当なものはどれですか。

1.A 典型的 B 巨視的          2.A 前衛的      B 具体的

3.A 効果的 B 急進的          4.A 社会的      B 相対的

 

問9 下線部(4)この巨大な文明上の課題」の説明として最も適当なものはどれですか。

1.都市集中により地方に住む人びとの飢餓感が増大し、生活水準が保てず環境破壊にもつながっていること。

2.急激な都市集中による地方の教育の衰退という問題が明るみに出て、地方に住む人びとが不利な立場を余儀なくされていること。

3.日本の工業化と都市集中により、環境保護の点から住民を地方分散することの難しさが表面化したこと。

4.都市集中の流れはとどまらず、一方で人びとが地方に分散することも環境破壊につながること。

 

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。

1.日本は工業社会からサービス産業社会に移行することにより、大都市への集中が急激に進み、少子化も都市集中に拍車をかけている。地方に住む人びとの飢餓感と、地方の深刻な衰退とをとどめるためには、財源を地方に投入し、サービス産業の雇用の促進を図ることが必要である。

2.日本のサービス産業の発展に伴い、現代人が必要とする魅力ある文化産業は都市に集中し、地方の飢餓感が増すことになった。この深刻な状況に取り組むためには、文化産業を分散供給する仕組みをつくるか、あるいは都市にすべてを集中させるかの、いずれかを選ぶ大胆さが必要である。

3.現代文明の本質問題である都市集中の流れに対する取り組みには、発想の大転換が必要である。流れにそむき住民を地方に分散させる方法と、逆に都市集中を推進する方法が考えられるが、いずれにしても、長期的な計画を立案することが必要である。

4.高度なサービスや文化が都市に集中することで魅力が増し、それに伴い都市の人口は増える一方である。この問題に取り組むには、地方分散を徹底させるか、都市集中を徹底させるかという発想の大転換が必要である。このうちのどちらを選択するかが、今後の日本の方向を決定するといえる。

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